インド最大手の自動車メーカー、タタ・モーターズが中国の奇瑞汽車(チェリー)のEV技術を採用する方針であることが報じられました。
一見すると不思議なニュースです。
インドは近年、中国企業への規制を強化しており、中国製アプリの禁止や中国企業への投資審査強化などを進めています。自動車業界でも中国メーカーへの警戒感は強く、中国車が自由に参入できる環境ではありません。
それにもかかわらず、なぜインド最大級のメーカーが中国のEV技術を選んだのでしょうか。
そこには世界のEV産業を大きく変える構造変化が見えてきます。
タタが中国・奇瑞のEVプラットフォームを採用へ
報道によると、タタ・モーターズは高級EVブランド「Avinya(アビニヤ)」向けに奇瑞のEVプラットフォームを活用する方向で調整を進めています。
初号車は2027年ごろに投入される見通しです。
車両はインド国内で生産される予定ですが、当初は中国から主要部品を輸入し、インドで組み立てる方式が採用されるとみられています。
つまり完成車としてはインド車でありながら、その土台となる技術は中国製という形になります。
実は中国車はインドで苦戦している
「中国技術が優秀なら、なぜ中国車そのものは売れないのか」と疑問に思う人もいるでしょう。
実際には、中国車がまったく売れないわけではありません。
BYDはインドでEVを販売していますし、MGブランドも一定のシェアを持っています。
しかし、中国メーカーがインド市場を席巻している状況ではありません。
理由は政治です。
2020年に発生した中印国境衝突以降、インド政府は中国企業への警戒を強めました。
中国企業による大型投資には厳しい審査が導入され、中国メーカーの工場建設や事業拡大は以前より難しくなっています。
つまり、
- 中国車は売れる
- しかし中国企業は歓迎されない
という複雑な状況になっているのです。
それでも中国技術が必要な理由
ではなぜタタは中国技術を選んだのでしょうか。
理由はシンプルです。
中国のEV技術が世界トップクラスだからです。
現在、中国は世界最大のEV市場です。
激しい価格競争の中で、
- バッテリー
- モーター
- 車載ソフトウェア
- 電子制御システム
- EV専用プラットフォーム
を急速に進化させてきました。
世界のEVメーカーの多くがコスト削減に苦しむ中、中国メーカーは大量生産によって価格競争力を高めています。
タタにとっても、すべてをゼロから開発するより、中国の成熟した技術を利用する方が圧倒的に有利なのです。
EV時代は「中国車」より「中国技術」が主役になる
今回のニュースで注目すべきなのはここです。
これまで中国メーカーは「中国車を世界に売る」ことを目指していました。
しかし今後は違います。
中国企業は技術供給者としての存在感を高めています。
例えば、
- EVプラットフォーム
- バッテリー
- 車載OS
- 半導体
- 自動運転技術
などを海外メーカーへ供給する動きが広がっています。
消費者から見ればインド車や欧州車に見えても、中身は中国技術というケースが増えていく可能性があります。
中国はEV産業の「裏方」になり始めている
スマートフォン業界では、アップルやサムスンが有名でも実際の部品供給では中国企業が重要な役割を果たしています。
EV業界でも同じ現象が起きつつあります。
将来的には、
- ブランドはインド
- 生産はインド
- 販売もインド
しかし、
- バッテリーは中国
- EVプラットフォームは中国
- ソフトウェアは中国
という車が珍しくなくなるかもしれません。
今回のタタと奇瑞の提携は、その象徴的な事例といえます。
中国EVの本当の強さとは
中国EVの強みは、単に安い車を作ることではありません。
世界最大のEV市場で培った技術力とサプライチェーンを持っていることです。
だからこそ、中国車を警戒する国であっても、中国技術そのものを完全に排除することは難しくなっています。
インドは今後も中国メーカーへの警戒を続けるでしょう。
しかしEV競争で遅れないためには、中国の技術力を活用せざるを得ない現実があります。
インドEV市場の成長に注目する投資家へ
インドは人口世界一の国となり、自動車市場の成長余地も大きいと考えられています。
今後はEV市場の拡大も期待されており、世界の投資家から注目を集めています。
インド関連の投資信託やETFを通じて成長市場へ投資する方法もあります。
まとめ
タタによる奇瑞EV技術の採用は、中国EV産業の新たな段階を示しています。
これまでは「中国車が世界で売れるか」が注目されていました。
しかし今後は、「中国技術が世界の自動車産業を支えるか」が重要なテーマになります。
中国車を警戒するインドでさえ、中国のEV技術を利用する時代になりました。
EV時代の競争は、もはや完成車メーカー同士だけではありません。
その裏側で世界の自動車産業を支える中国技術の存在感が、ますます大きくなっているのです。

