中国中央テレビ(CCTV)が報じた内容が中国国内で波紋を広げている。電気自動車(EV)から取り外された使用済みバッテリーが再利用され、本来は禁止されている電動バイク向けバッテリーとして流通している実態が明らかになったためだ。
一見すると単なる違法改造や安全問題に見える。しかし本質はもっと深い。これは世界最大のEV大国となった中国が直面する「EV成功の副作用」とも言える問題である。
EV大国中国で何が起きているのか
CCTVの調査では、一部の電動バイク向けバッテリー交換サービスや販売店が、国家基準を超える高電圧バッテリーを利用者へ提供していた。
中国の電動自転車は安全基準によって一定の電圧や性能が定められている。しかし実際には60Vや72Vといった高電圧バッテリーが流通し、利用者の車両改造まで行われていたという。
さらに問題視されたのが、そのバッテリーの中身だ。EVから回収した使用済みセルを再利用し、新たな電動バイク用バッテリーとして販売する業者が存在していた。
中国では法令上、このような利用は禁止されている。それにもかかわらず市場が成立している背景には、中国特有の事情がある。
なぜ違法市場が生まれるのか
多くの報道は「危険な改造バッテリー」と説明する。しかしそれだけでは本質を説明できない。
中国は世界最大のEV市場である。BYDをはじめとする中国メーカーが大量のEVを販売し、今後は大量の使用済みバッテリーが発生する時代に入る。
一方で、中国は世界最大の電動バイク大国でもある。
フードデリバリー配達員、宅配ドライバー、出前サービス、シェア電動バイクなど、都市部では電動二輪車が社会インフラになっている。
利用者から見れば、
- より遠くまで走りたい
- 充電回数を減らしたい
- 安く高性能なバッテリーが欲しい
という需要がある。
そこで発生するのが、EV廃バッテリーの再利用市場だ。
EV用バッテリーとしては性能が低下していても、電動バイク用途ならまだ使えるケースがある。その結果、正規ルートから外れたセルが地下市場へ流れるのである。
日本では起きにくい理由
日本でもリチウムイオン電池のリサイクルは行われている。しかし中国と同じ規模の問題が発生しにくい。
最大の理由は市場規模だ。
中国では電動二輪車保有台数が数億台規模に達している。一方、日本では原付や電動アシスト自転車市場は限定的で、配達産業も中国ほど電動二輪へ依存していない。
また中国では「換電」と呼ばれるバッテリー交換サービスが広く普及している。利用者は充電するのではなく、交換ステーションで数分以内にバッテリーを交換できる。
こうした巨大市場があるからこそ、再利用セルにも需要が生まれる。
つまり問題の根本は中国人のモラルではなく、中国特有の市場構造にある。
EV先進国だからこそ発生した課題
興味深いのは、この問題がEV後進国ではなくEV先進国で起きていることだ。
中国政府は近年、EV普及を強力に推進してきた。
その結果、
- EV販売世界最大
- バッテリー生産世界最大
- 廃バッテリー発生量世界最大
という状況になった。
しかし回収や再利用の仕組みはまだ発展途上である。
大量の使用済みバッテリーが発生する一方で、正規リサイクルだけでは処理しきれない。そこに利益を求める非正規業者が参入し、地下市場が形成されている。
中国政府が今回この問題を大きく報じたのは、単なる安全対策ではない。今後さらに増加するEV廃バッテリー問題への警戒感が背景にあるとみられる。
安全な蓄電池選びが重要になる時代へ
今回の問題は、中国だけの話ではない。
世界的にEVや蓄電池の普及が進むなかで、今後は「どのセルを使っているのか」「どのメーカーが管理しているのか」がますます重要になる。
特に災害対策やアウトドア用途でポータブル電源を選ぶ場合は、価格だけでなく安全管理体制や品質管理も確認したい。
EV時代の到来は便利さをもたらした一方で、廃バッテリーという新たな課題も生み出した。中国で起きている問題は、日本が将来直面する可能性のある課題を先取りしているとも言えるだろう。

