2026年6月、異業種企業によるコメ生産参入が相次いでいる。外食大手ワタミはグループで使用するコメの自給化を進め、アイリスオーヤマも農業事業へ本格参入した。背景にあるのは、2025年から2026年にかけて日本社会を揺るがせた「令和の米騒動」である。
コメ不足と価格高騰によって、多くの企業は市場から買うだけでは安定供給を確保できないことを痛感した。これは単なる農業ニュースではない。日本企業が食料安全保障という国家レベルの課題を、自らの経営問題として認識し始めた象徴的な出来事なのである。
コメ不足で変わった企業の発想
これまで日本企業は必要なコメを市場から調達すればよかった。
しかし令和の米騒動では価格が急騰し、一部では品薄も発生した。外食チェーンや食品メーカーにとって、原材料価格の高騰はそのまま経営リスクになる。
そこで企業は考え方を変え始めた。
「買う」から「作る」へ。
ワタミはグループで使用する年間約1200トンのコメについて、2027年度までに約600トンを自社や契約農家で生産する計画を進めている。アイリスオーヤマも農地を活用し、コメ生産からパックご飯販売まで一体化した事業を構築しようとしている。
つまり企業は農業への挑戦ではなく、食料調達リスクへの対応としてコメ作りを始めているのである。
本当の問題は高齢化だった
今回の問題を単なる価格高騰で終わらせてはいけない。
日本の基幹的農業従事者は2000年の約240万人から2025年には約102万人へ減少した。
さらにその約7割が65歳以上である。
つまり日本農業は今後も生産者減少が続く可能性が高い。
コメ価格が上がった理由の一つも、こうした構造的な供給力低下にある。
日本人はこれまで「コメは当たり前にある」と考えてきた。
しかし実際には、その当たり前を支える農家が急速に減っている。
企業参入が注目されるのは、この問題を埋める存在として期待されているからだ。
中国はなぜ食料安全保障を重視するのか
ここで中国を見ると、日本との違いが見えてくる。
中国では食料安全保障は国家戦略そのものだ。
習近平政権は「中国人の飯碗は中国人の手で持つ」という表現を繰り返してきた。
中国政府は穀物備蓄を大規模に保有し、農地保護政策や農業補助金も積極的に投入している。
背景には人口14億人を抱える大国ならではの危機感がある。
もし輸入に依存しすぎれば、国際情勢の変化だけで社会不安につながる。
そのため中国では食料問題は経済政策ではなく安全保障政策として扱われる。
日本も「中国化」しているのか
もちろん日本と中国は同じではない。
中国は国家主導で食料供給を管理する。
一方、日本では民間企業が市場原理の中で動いている。
しかし方向性だけを見ると共通点がある。
それは「市場だけに頼らない」という発想だ。
ワタミやアイリスオーヤマの動きは、中国のような国家主導ではないものの、自前で食料を確保しようとする行動である。
令和の米騒動によって、日本企業も初めて食料を安全保障の視点で見るようになった。
これは戦後日本では大きな変化と言える。
農業は新しい成長産業になるのか
企業参入には期待もある。
大規模化による効率向上。
耕作放棄地の活用。
スマート農業技術の導入。
若手人材の確保。
従来の家族経営農業だけでは難しかった課題に、企業の資金力や経営ノウハウが活用できる可能性がある。
一方で懸念もある。
大企業が良質な農地や契約農家を囲い込めば、中小農家との格差が広がる可能性もある。
地域農業の多様性が失われるリスクも指摘されている。
企業参入は万能薬ではない。
だが何もしなければ農業人口の減少は続く。
だからこそ日本社会は新しい農業モデルを模索し始めているのである。
日本人が本当に考えるべきこと
今回のニュースで重要なのは、ワタミやアイリスオーヤマが農業を始めたことではない。
重要なのは、日本人が初めて「コメが足りなくなるかもしれない」という現実を意識したことだ。
戦後の日本は豊富な食料供給を前提に発展してきた。
しかし人口減少、高齢化、気候変動、国際情勢の不安定化によって、その前提が揺らぎ始めている。
中国は以前から食料を安全保障として扱ってきた。
日本もようやく同じ課題に直面し始めた。
令和の米騒動は単なる価格高騰事件ではない。
それは日本社会が食料の重要性を再認識した転換点だったのかもしれない。
食卓を支える産業の変化に注目したい
コメ不足や食料安全保障への関心が高まる中、毎日の食卓を支える食品産業も変化している。冷凍パンの宅配サービスとして注目されるSTYLE BREADは、食品ロス削減や安定供給という観点からも支持を集めている。食料の安定確保が重要になる時代だからこそ、生産から流通までをどう支えるかという視点は今後さらに重要になるだろう。

