中国は世界第2位の経済大国である。
そのため台湾と外交関係を持つ国は年々減少している。中国と国交を結べば巨大市場へのアクセスや投資誘致が期待できるからだ。
しかし本当に中国へ乗り換えた国々は豊かになったのだろうか。
実際に調べると、答えは単純ではない。中国を選んで利益を得た国もある一方、期待したほどの成果が出ず、むしろ新たな問題を抱えた国も少なくない。
台湾外交を巡る争いは、中国と台湾の問題であると同時に、小国が大国とどう付き合うかという現代外交の縮図でもある。
「中国市場は巨大だから得をする」は本当なのか
台湾と断交した国について語られるとき、多くの場合はこう説明される。
- 中国市場は巨大
- 中国は資金力がある
- 中国企業はインフラ投資を行う
- 一帯一路で発展できる
確かに間違いではない。
しかし小国にとって重要なのは市場規模だけではない。
台湾と国交を持つ国は現在わずかしか存在しない。そのため台湾にとって極めて重要なパートナーとして扱われる。
一方、中国と国交を結べば180以上ある外交相手国の一つになる。
ここに多くの日本人が見落としている外交の現実がある。
パナマは「中国特需」を期待した
2017年、パナマは台湾と断交し、中国と国交を樹立した。
背景にあったのはパナマ運河だ。
世界有数の海運拠点であるパナマにとって、中国は極めて重要な顧客である。
中国企業は港湾開発や鉄道建設などの大型案件を提案した。
当時は「台湾から中国への乗り換え成功例」として注目された。
しかしその後、計画された大型プロジェクトの一部は停滞した。
政権交代後には対中依存への警戒も強まり、当初期待されたほど劇的な変化は起きていない。
ドミニカ共和国は貿易赤字が拡大
2018年、ドミニカ共和国は台湾と断交した。
中国との経済関係拡大が期待されたが、その後目立ったのは中国からの輸入増加だった。
中国製品は大量に流入した一方で、中国向け輸出は限定的だった。
これは中国と多くの途上国の関係で共通して見られる現象である。
中国は巨大な市場だが、同時に巨大な輸出国でもある。
結果として、小国側の貿易赤字が拡大するケースは少なくない。
エルサルバドルは安全保障問題へ発展
同じく2018年に台湾と断交したエルサルバドルでは、中国企業による港湾開発計画が注目を集めた。
しかしここで登場したのは中国ではなく米国だった。
アメリカは、「将来的に中国の軍事利用につながる可能性がある」と強く警戒したのである。
つまり台湾断交は単なる経済問題では終わらない。
米中対立の最前線へ巻き込まれる可能性がある。
ソロモン諸島は最も大きく変わった
2019年に台湾と断交したソロモン諸島は、その後の変化が最も大きかった国の一つだ。
中国との安全保障協定締結により、
- 中国警察との協力
- 港湾利用問題
- 中国軍進出への懸念
などが国際問題化した。
オーストラリアや米国は強い警戒感を示した。
台湾断交が国家安全保障問題へ発展した典型例と言える。
ホンジュラスは期待と現実のギャップに直面
2023年に台湾と断交したホンジュラスは、中国市場への期待が特に大きかった。
特にエビ産業は中国輸出による成長を期待していた。
しかし現実には台湾向け輸出を失った影響が大きかった。
台湾は友好国向けに優遇措置を取っていたためである。
結果として輸出業者の不満が高まり、中国市場だけでは代替できないことが明らかになった。
巨大市場があることと、実際に売れることは別問題なのである。
ニカラグアとナウルはまだ答えが出ていない
ニカラグアは2021年、ナウルは2024年に台湾と断交した。
両国とも中国からの投資や支援を期待している。
しかし現時点では長期的な成果はまだ不透明だ。
特に中国経済そのものが減速しているため、「中国と国交を結べば経済成長できる」という時代は終わりつつある可能性もある。
なぜ中国は台湾の承認国を奪い続けるのか
ここで重要なのは、中国の目的が経済だけではないことだ。
中国が本当に欲しいのは市場ではなく外交的正統性である。
台湾の承認国が減れば、
- 台湾の国家性が弱まる
- 国際機関参加が難しくなる
- 「一つの中国」原則が強化される
という効果がある。
つまり中国にとって小国との外交関係は、国際世論を巡る戦いでもある。
今回のケニアでの台湾代表団問題も、その延長線上に位置付けられる。
日本との違い
日本は中国とも台湾とも関係を持っている。
しかしパナマやホンジュラスのような小国にはその選択肢がない。
台湾を選べば中国を失う。
中国を選べば台湾を失う。
どちらか一方を選ばなければならない。
これが「一つの中国」原則が持つ現実である。
日本人は中国と台湾の両方と交流できる環境に慣れているため、この厳しい選択を見落としがちだ。
今後どうなるのか
中国は今後も台湾の承認国を減らそうとするだろう。
しかし以前ほど簡単ではない。
中国経済は、
- 不動産不況
- 地方政府債務問題
- 消費低迷
- 若年失業問題
を抱えている。
かつてのような「中国と国交を結べば豊かになる」という説得力は弱まりつつある。
皮肉なことに、中国経済の減速が台湾外交を支える要因になり始めている。
今後の焦点は、「中国市場の魅力」と「台湾との特別な関係」のどちらを各国が選ぶかだろう。
台湾外交を巡る競争は終わっていない。
むしろ中国経済の変化によって、新しい局面へ入りつつある。
台湾を知るなら現地を見るのが一番早い
ニュースでは台湾問題は外交や軍事の話として語られる。しかし実際に台湾を訪れると、日本との距離の近さや独自の文化、民主主義社会としての活気を実感できる。

