2026年6月、中国軍序列2位の張升民・中央軍事委員会副主席が軍高官らに対し、習近平国家主席への忠誠や「二つの擁護」を改めて強調した。表面上は幹部研修修了式での演説だが、中国ウォッチャーの間では「なぜ今になって忠誠確認が必要なのか」という見方が広がっている。
背景には近年続く中国軍上層部の大規模粛清がある。特に2025年から2026年にかけて軍幹部の失脚が相次ぎ、軍内部の権力構造に大きな変化が起きている。今回の発言は単なる政治スローガンではなく、中国軍が抱える構造的な問題を映し出している可能性が高い。
「二つの擁護」とは何なのか
今回の演説で繰り返し登場したのが「二つの確立」と「二つの擁護」である。
これは習近平を党中央の核心と認め、その権威を絶対的なものとして守るという意味を持つ中国共産党の政治用語だ。
日本人から見ると不思議に映るかもしれない。しかし中国軍は日本の自衛隊や米軍とは根本的に異なる。
日本の自衛隊は国家に属する軍事組織であり、政府が変わっても忠誠の対象は国家と憲法である。一方、中国人民解放軍は制度上「国家の軍」ではなく「共産党の軍」である。軍の最高使命は国土防衛だけではなく、中国共産党政権を守ることにある。
だからこそ中国軍では定期的に政治教育や忠誠教育が行われる。
なぜ習近平は軍の忠誠を確認し続けるのか
一般的な説明では「腐敗防止のため」とされる。
しかし、それだけでは説明できない。
中国軍では近年、ロケット軍、装備開発部門、中央軍事委員会関係者など軍中枢で大規模な粛清が続いている。失脚した人物の多くは習近平政権下で昇進した人物だった。
つまり問題は単純な汚職ではない。
習近平から見れば、自ら抜擢した人物ですら完全には信用できなかったということになる。
中国共産党は歴史的に軍の反乱を最も恐れてきた組織だ。毛沢東も「政権は銃口から生まれる」と語った。
そのため軍内部で独自の人脈や派閥が形成されることを極度に警戒する。
今回の忠誠強調も、軍事力の強化というより政治的統制の再確認という意味合いが強い。
張又侠失脚説が広げた不安
今回注目された理由の一つが、軍序列上位層の異変である。
近年、中国軍では国防相やロケット軍幹部の更迭が続き、軍上層部の権力図が何度も書き換えられている。
軍のトップクラスが相次いで姿を消す状況は異例だ。
その結果、中国国内外では「軍内部で何が起きているのか」という憶測が広がっている。
本来、軍の安定は政権の安定そのものだ。
だからこそ今回の忠誠確認は、中国軍が盤石であることを示すためというより、むしろ盤石ではないからこそ必要になった可能性がある。
台湾有事への影響はあるのか
日本人にとって最も気になるのはここだろう。
一見すると軍内部の粛清は中国軍の弱体化に見える。
しかし実際はそれほど単純ではない。
短期的には幹部交代による混乱が発生する可能性がある一方で、習近平は軍の統制力をさらに強めることになる。
台湾有事を考える上で重要なのは、中国軍の装備数だけではない。
誰が指揮し、誰が責任を負い、誰が最終判断を下すのかという権力構造である。
中国軍は2027年の人民解放軍創設100周年を大きな節目としている。習近平が軍の忠誠確認を急ぐ背景には、この節目までに軍を完全掌握したいという思惑も見え隠れする。
中国軍の問題は軍事ではなく政治にある
多くの日本人は中国軍を軍事力の視点から見る。
しかし中国を理解するためには政治の視点が欠かせない。
今回の忠誠確認はミサイルや空母の話ではない。
軍がどれだけ習近平個人に依存する体制になっているのかを示す出来事である。
軍幹部の粛清が続くほど習近平への権力集中は進む。しかし同時に、それは軍内部の不安や不信の存在も示している。
中国軍創設100周年を目前に控えた今、中国軍最大の課題は装備近代化ではなく、「習近平体制への忠誠をどう維持するか」なのかもしれない。

