中国経済に異変が起きている。2026年5月の中国小売売上高は前年同月比0.6%減となり、約3年半ぶりのマイナスへ転落した。一方で工業生産は4.5%増、輸出は19.4%増と依然として好調だ。
普通に考えれば、工場がフル稼働し輸出も伸びているなら国民生活も潤うはずである。しかし中国では「作る側」と「買う側」の間に大きな断絶が生まれている。
なぜ中国人はお金を使わなくなったのか。その背景には中国特有の不動産依存社会が存在する。
小売売上高減少の本当の原因は不動産にある
一般的な報道では、
- 景気が悪い
- 若者の失業率が高い
- 消費者心理が悪化した
と説明されることが多い。
しかし、それだけでは本質を説明できない。
中国では長年にわたり、「家を買えば資産が増える」という考え方が社会全体を支配してきた。
日本人にとって住宅は住むためのものだが、中国では資産形成そのものだった。
その結果、多くの家庭は資産の大半を不動産に集中させてきた。
ところが恒大集団問題以降、不動産価格は下落を続けている。
家計資産の中心だった不動産価値が下がれば、人々は当然財布のひもを締める。
今回の小売売上高減少は単なる景気悪化ではなく、中国人の「資産防衛行動」が表面化した結果なのである。
なぜ中国政府の消費刺激策が効かなくなったのか
中国政府は近年、「以旧換新」と呼ばれる買い替え補助金政策を積極的に進めている。
家電、自動車、スマートフォンなどを買い替えると補助金が支給される制度だ。
実際に2025年までは一定の効果を発揮した。
しかし2026年に入り、その勢いは明らかに弱まっている。
理由は単純だ。
人々が欲しいのは補助金ではなく安心だからである。
住宅価格が下落し、
- 将来の収入が不安
- 就職環境が厳しい
- 老後資金も心配
という状況では、多少の補助金を配っても支出は増えない。
これは日本の失われた30年でも見られた現象だ。
中国は今、日本が1990年代以降に経験した資産デフレに近い局面へ入りつつある。
「工場は元気、家庭は疲弊」という中国経済
今回の統計で興味深いのは、工業生産や輸出は依然として好調なことだ。
中国は現在、
- EV
- 太陽光パネル
- バッテリー
- AI関連機器
- 半導体
などの生産を拡大している。
つまり工場は忙しい。
ところが家庭はお金を使わない。
中国経済は今、「作れるが売れない」という状態に陥っている。
これは高度成長期の終了を示す典型的なサインでもある。
かつての中国は、
工場が成長
↓
雇用増加
↓
所得増加
↓
消費増加
という好循環だった。
しかし現在は、
工場成長
↓
輸出増加
↓
家計不安
↓
消費減少
という構造へ変化している。
日本との決定的な違い
ここで日本と中国の違いが見えてくる。
日本でも住宅価格は重要だが、家計資産は預金や金融資産にも分散している。
一方、中国では不動産依存が極めて強い。
つまり住宅価格の下落がそのまま消費低迷へ直結しやすい。
さらに中国では医療、教育、老後への不安も大きい。
そのため景気が悪くなると、「今のうちに貯金しておこう」という行動が日本以上に強くなる。
これが中国政府が苦戦している理由でもある。
日本人への影響は小さくない
中国消費の弱体化は日本にも影響する。
中国は依然として日本企業にとって巨大市場だ。
中国人が財布を閉じれば、
- 化粧品
- 高級ブランド
- 自動車
- 家電
- 観光
など幅広い分野に影響が及ぶ。
逆に中国政府が景気対策を強化すれば、世界経済全体が押し上げられる可能性もある。
中国経済はもはや中国だけの問題ではない。
日本人にとっても無関係ではないのである。
中国経済はどこへ向かうのか
今回の小売売上高マイナスは、一時的な景気指標以上の意味を持つ。
問題は消費そのものではない。
中国人が将来に自信を持てなくなっていることだ。
不動産価格が回復しない限り、消費回復も限定的になる可能性が高い。
中国政府は追加景気対策を打ち出すとみられるが、不動産依存から脱却できるかどうかが今後数年の最大の焦点になる。
中国経済は今、「世界の工場」から「成熟経済」へ移行する難しい局面に入っている。
その成否は、日本経済にも少なからぬ影響を与えることになりそうだ。

