2026年6月16日、高市首相はG7サミットに合わせてブラジルのルラ大統領と会談し、日本と南米経済圏「メルコスール」のEPA(経済連携協定)交渉開始で合意した。自動車や工業製品の輸出拡大に期待が集まる一方、日本の農業関係者からは牛肉や鶏肉など農産物への影響を懸念する声も上がっている。
自由貿易は消費者に利益をもたらす一方で、国内産業には厳しい競争を迫る。今回のEPA交渉は、日本の食料安全保障と市場原理のバランスを改めて問いかける出来事になりそうだ。
なぜ日本は南米とのEPAを急ぐのか
メルコスールはブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイを中心とする巨大経済圏である。
ブラジルは世界有数の農業大国であり、
- 牛肉
- 鶏肉
- 大豆
- トウモロコシ
などの輸出で圧倒的な存在感を持つ。
日本が南米との関係強化を急ぐ背景には、経済安全保障の問題がある。
中国依存のリスク。
中東情勢の不安定化。
世界的な資源争奪戦。
こうした環境変化の中で、日本は調達先を多様化したいのである。
つまり今回のEPAは単なる貿易協定ではなく、資源・食料・エネルギーを安定確保するための戦略でもある。
牛肉や鶏肉の輸入が増えると何が起きるのか
消費者から見れば答えはシンプルだ。
安くなる可能性が高い。
ブラジルは世界有数の畜産大国であり、大規模生産によるコスト競争力を持っている。
輸入障壁が下がれば、
- 外食チェーン
- コンビニ弁当
- 冷凍食品
- 総菜
などで価格上昇を抑えやすくなる。
インフレに苦しむ消費者にとっては大きなメリットだ。
実際、日本はすでに鶏肉輸入の多くをブラジルに依存している。
今回のEPAによって、その流れがさらに強まる可能性がある。
本当に国内農家は打撃を受けるのか
ここでよくあるのが「国内農家を守るべきだ」という議論である。
しかし市場原理だけで考えれば、競争力の低い産業が縮小し、競争力の高い産業へ資源が移動するのは自然なことでもある。
例えば製造業では、
- フィルムカメラ
- ブラウン管テレビ
- ガラケー
などが市場競争で縮小した。
農業だけが例外である必要はないという考え方も存在する。
実際、採算が取れない業態を維持するために補助金を投入し続ければ、消費者負担や財政負担は増える。
その意味では競争を通じて農業の効率化を進めるべきだという意見にも一定の合理性がある。
それでも農業が特殊な理由
ただし農業は家電産業とは違う。
最大の違いは食料であることだ。
テレビは輸入できなくても生活できる。
しかし食料はそうではない。
戦争、パンデミック、異常気象、輸出規制などが起きれば、世界市場そのものが機能しなくなる可能性がある。
2022年のウクライナ戦争では穀物価格が急騰した。
各国が輸出規制を行った事例もある。
つまり「お金さえ払えばいつでも買える」という保証は存在しない。
このため多くの国は農業を単なる産業ではなく、安全保障の一部として扱っている。
アメリカもEUも中国も巨額の農業支援を続けている理由はそこにある。
日本農業の本当の問題
今回の議論で見落とされがちなのは、日本農業は保護されているように見えて、実際には農家が減り続けていることだ。
高齢化。
後継者不足。
耕作放棄地。
生産コスト上昇。
こうした問題は長年続いている。
つまり現行制度は農家保護にも成功していない。
本当に必要なのは「守るか自由化するか」の二択ではなく、
- 大規模化
- 法人化
- スマート農業
- 企業参入
などによる生産性向上である。
ワタミやアイリスオーヤマが農業へ参入しているのも、その流れの一部と言える。
自由貿易と食料安保は両立できるのか
今回のEPA交渉の本質はここにある。
安い輸入品は消費者に利益をもたらす。
しかし輸入依存が進みすぎれば、国内生産基盤は弱くなる。
自由貿易を進めるのか。
食料自給を重視するのか。
そのバランスをどう取るのか。
日本はこれから難しい判断を迫られることになる。
南米EPAは単なる外交ニュースではない。
私たちの食卓と、日本農業の将来を左右する重要な転換点なのである。
食材を選ぶ時代へ
自由貿易によって食品の選択肢は今後さらに広がる可能性がある。一方で、どのような生産者が作った食材を選ぶのかは消費者自身の判断になる。オイシックスは国産野菜や生産者情報を重視した食品宅配サービスとして知られており、食の安全性や生産背景に関心を持つ人から支持を集めている。輸入品と国産品の選択肢が増える時代だからこそ、食材の価値を考える機会も増えていくだろう。

