中国のコーヒー市場で最も勢いのある企業といえば瑞幸咖啡(Luckin Coffee)だ。2025年の売上は約493億元、日本円で約1兆円規模に達し、店舗数は3万店を突破した。中国国内ではスターバックスを大きく上回る店舗網を持ち、中国最大のコーヒーチェーンとなっている。
しかし不思議なのは、ここまで巨大化したにもかかわらず、瑞幸が出店を止めないことだ。
日本企業なら一定規模で利益重視へ転換する。しかし中国企業は違う。そこには中国特有の経営思想が存在する。
売上は急成長、しかし利益は思ったほど増えていない
瑞幸は近年、驚異的な成長を続けている。
店舗数は2020年頃の数千店規模から数年で3万店を突破した。売上も毎年大幅に増加している。
一方で利益率を見ると話は少し変わる。
中国のコーヒー市場では価格競争が激しく、瑞幸は頻繁にクーポンを配布し、低価格戦略を続けている。その結果、売上は伸びても利益率は圧迫されやすい。
日本人の感覚では「十分な規模なのだから値上げして利益を取ればいい」と思うかもしれない。しかし中国企業はそう考えない。
中国企業はなぜ利益よりシェアを重視するのか
ここが日本企業との最大の違いである。
中国企業にとって最優先は利益ではなく市場支配だ。
不動産業界では恒大集団がそうだった。
EV業界ではBYDや小米汽車もそうである。
まずシェアを取り、競合を弱らせ、その後に利益を回収する。
瑞幸も同じ発想で動いている。
中国では市場が巨大であるため、1位と2位の差が極端に大きくなる。だから企業は短期利益を犠牲にしてでも規模拡大を優先する。
瑞幸はコーヒー会社ではなくデータ企業でもある
日本ではカフェは飲食店である。
しかし中国では少し違う。
瑞幸の利用者はアプリで注文する。
決済もアプリ。
クーポンもアプリ。
ポイントもアプリ。
企業側は膨大な消費データを取得できる。
どの商品が売れるのか。
どの時間帯に注文されるのか。
どの価格なら購入されるのか。
こうしたデータを使って商品開発や販促を行う。
つまり瑞幸はコーヒーを売っているだけでなく、巨大な消費者データ基盤を構築しているのである。
なぜ中国の若者は瑞幸を選ぶのか
理由は単純だ。
安くて便利だからである。
中国の若者は節約志向が強まっている。
しかし消費そのものをやめたわけではない。
旅行。
ゲーム。
推し活。
カフェ。
こうした分野には今もお金を使う。
ただし無駄なお金は払いたくない。
スターバックスで30元使うなら、瑞幸で10元台の商品を買う。
その差額を別の娯楽に回す。
こうした考え方が広がっている。
中国のコーヒー市場はEV市場とよく似ている
実は瑞幸の成長はBYDや小米の成長と非常によく似ている。
共通点は、
- 値下げ競争
- シェア優先
- 規模拡大
- データ活用
- 利益後回し
である。
日本企業は利益率を重視する。
中国企業は市場支配を重視する。
この違いが世界市場でも結果を分け始めている。
コーヒー市場で起きていることは、中国経済全体の縮図でもある。
中国コーヒーバブルは崩壊するのか
一方でリスクもある。
出店競争が続けば、
- 採算悪化
- 共食い
- 値引き競争
が発生する。
実際、中国では過去に
- シェアサイクル
- フードデリバリー
- 不動産
などで過剰投資が問題になった。
瑞幸も例外ではない。
今後は店舗数よりも、1店舗あたりでどれだけ利益を生み出せるかが重要になる。
日本人への影響
日本では瑞幸の知名度はまだ高くない。
しかし中国企業の海外進出が進めば状況は変わる。
もし瑞幸が本格的に日本へ進出すれば、
- コンビニコーヒー
- ドトール
- タリーズ
- スターバックス
との競争が激しくなる可能性がある。
また、日本企業も中国式のデジタル店舗運営から学ぶ点が少なくない。
安さの競争だけではないコーヒーの価値
中国市場を見ると、コーヒーは価格だけで選ばれる商品に見える。
しかし本来のコーヒー文化はもっと奥深い。
豆の産地。
焙煎方法。
香りの違い。
抽出技術。
こうした要素を楽しむ人も増えている。
中国式成長モデルの象徴
瑞幸コーヒーは単なるカフェチェーンではない。
中国企業が得意とする「市場支配型成長モデル」の象徴である。
売上500億元を超え、3万店を突破しても出店を続けるのは、利益よりもシェアを優先しているからだ。
その戦略はこれまで成功してきた。
しかし次の課題は明確である。
どこかで規模拡大から利益重視へ転換できるのか。
それとも中国企業にありがちな過剰競争へ突き進むのか。
瑞幸コーヒーの未来は、中国経済そのものの未来を映す鏡になるかもしれない。

