中国では毎年1000万人以上の大学卒業生が社会に送り出されている。しかし近年、「大学を出ても幸せになれない」と感じる若者が増えている。
日本人から見ると不思議かもしれない。中国は経済成長を続け、世界第2位の経済大国となった。それなのに、なぜ若者たちは将来に希望を持てなくなっているのだろうか。
その背景には、中国特有の教育制度、家族観、不動産神話、そして急速な経済構造の変化がある。
多くの人が考える「ありがちな説明」
このテーマでよく語られるのは次のような説明だ。
- 就職難だから
- 大卒が増えすぎたから
- 不景気だから
- 若年失業率が高いから
- 不動産不況だから
- 給料が安いから
- AIに仕事を奪われるから
- 競争社会だから
- 結婚できないから
- 若者が贅沢だから
もちろんこれらも事実の一部である。
しかし、これだけでは中国の若者が抱える苦しみの本質は見えてこない。
本当の問題は「成功ルートそのもの」が壊れ始めたこと
中国社会では長年、人生の成功ルートが非常に明確だった。
高考(大学入試)に合格する。
良い大学へ行く。
大企業や公務員になる。
都市部で住宅を購入する。
結婚する。
親を安心させる。
これが中国版の人生ゲームだった。
日本にも似た考え方はあるが、中国は比較にならないほど学歴競争が激しい。
高考は単なる大学入試ではない。
地方出身者が大都市へ移動し、社会階層を上昇するための最大のチャンスでもある。
だから中国の家庭は教育に莫大な資金と時間を投入してきた。
問題は、そのルートの出口が詰まり始めたことだ。
大学進学率の上昇が逆に若者を苦しめる
かつて中国では大学生そのものが希少な存在だった。
しかし現在は大学進学が一般化し、毎年1000万人を超える卒業生が生まれている。
その結果、大卒資格だけでは差別化できなくなった。
日本でも「大卒だから安心」という時代ではなくなっている。
だが中国は競争人口が圧倒的に多い。
優秀な学生同士が全国規模で競争するため、普通の大学を出ただけでは十分な武器にならなくなっている。
中国特有の「親の投資回収問題」
日本人が見落としがちなポイントがある。
それは中国では教育が家族全体のプロジェクトになっていることだ。
一人っ子政策世代では特に顕著だった。
祖父母、両親、親族が一人の子どもへ資金を集中させる。
子どもはその期待を背負う。
大学卒業後も、
- 良い会社に入る
- 家を買う
- 結婚する
- 孫を見せる
ことが期待される。
つまり中国の大学生は、自分の人生だけでなく家族全体の期待を背負っている。
就職難が深刻なのは、単に収入の問題ではない。
家族の期待そのものが崩れてしまうからだ。
住宅神話の崩壊
さらに大きいのが不動産問題である。
中国では長年、「家を買えば人生は安泰」という考え方があった。
結婚市場でも住宅所有は非常に重要だった。
しかし近年は不動産不況が続いている。
住宅価格の伸びは鈍化し、一部地域では下落も見られる。
かつては人生のゴールだった住宅購入が、若者にとっては重い負担へ変わった。
高学歴になっても住宅を買えない。
住宅を買えないと結婚しにくい。
その結果、「頑張る意味が分からない」と感じる若者が増えている。
「内巻」が生まれる理由
中国では近年、「内巻(ネイジュエン)」という言葉が流行している。
意味は過剰競争だ。
みんなが努力する。
すると努力が当たり前になる。
さらに努力する。
しかし成果は増えない。
これは学歴競争にも当てはまる。
良い大学へ入るために努力する。
大学へ入った後も資格を取る。
大学院へ進学する。
しかし就職先は限られている。
競争だけが激しくなり、幸福感は増えない。
これが多くの若者が感じている現実である。
なぜ公務員人気が高まるのか
最近の中国では公務員人気が過熱している。
その理由は単純だ。
安定しているからである。
以前はIT企業や民間企業が人気だった。
しかし現在は景気減速や人員削減の影響もあり、公務員や国有企業への志望者が急増している。
これは夢を追っているのではない。
失敗を避けようとしているのである。
ここに現在の中国若者の心理が表れている。
日本人への影響
この問題は中国だけの話ではない。
中国経済の減速は日本企業にも影響する。
中国の若者が消費を控えるようになれば、
- 日本製品
- 日本旅行
- 日本ブランド
への支出も変化する。
また、中国の若者が公務員志向になる一方で、日本では人手不足が進んでいる。
両国は全く逆方向へ向かっているようにも見える。
しかし共通するのは、「学歴だけでは将来が保証されない」という現実だ。
学歴よりも重要になり始めたもの
中国でも日本でも、これから重要になるのは学び続ける力である。
大学卒業はゴールではない。
社会人になってから新しい知識やスキルを身につけることが重要になっている。
資格取得やリスキリングへの関心が高まっているのもそのためだ。
今後どうなるのか
中国政府は若年雇用対策を進めている。
しかし問題の本質は単純な雇用不足ではない。
高考を頂点とした成功モデルそのものが変化していることにある。
今後は、
- 職業教育の強化
- 公務員人気の継続
- 結婚年齢の上昇
- 少子化の進行
- 地方都市への回帰
などがさらに進む可能性が高い。
中国の若者は今、「勉強すれば報われる社会」から「勉強だけでは報われない社会」への転換点に立っている。
それは中国だけではなく、日本を含む東アジア全体が直面している問題なのかもしれない。

