近年、中国のSNSやニュースで頻繁に登場する言葉があります。
それが「内巻(ネイジュエン)」です。
中国の若者たちはこの言葉を使って、受験競争や就職競争、職場での過剰な競争を批判しています。
かつての中国は「努力すれば成功できる国」と言われていました。
しかし現在は、「どれだけ頑張っても報われない」という不満が広がっています。
なぜ中国の若者は内巻を嫌うのでしょうか。
今回は中国社会を象徴するキーワード「内巻」の正体を解説します。
内巻(ネイジュエン)とは何か
内巻とは、簡単に言えば「終わらない過剰競争」のことです。
本来であれば努力によって成果が増えるはずです。
しかし内巻状態では、
- 努力量だけ増える
- 競争相手も同じ努力をする
- 結果はほとんど変わらない
という状況になります。
例えば大学生なら、
- 英語資格を取得する
- インターンを経験する
- 大学院に進学する
といった努力をします。
ところが周囲も同じことをするため、結局は差別化できません。
その結果、さらに新しい競争が始まります。
これが内巻です。
なぜ若者は内巻を嫌うのか
若者が嫌っているのは努力そのものではありません。
問題は「努力しても人生が改善しない」と感じることです。
以前の中国では経済成長が続き、
- 良い大学に入る
- 良い会社に入る
- 家を買う
- 家庭を持つ
という成功モデルが比較的機能していました。
しかし現在は状況が変わっています。
就職競争は激しくなり、不動産価格は高騰し、若者の将来不安も増しています。
そのため、「こんなに頑張っているのに何も変わらない」という不満が強くなっているのです。
高考が生む終わらない競争
中国の競争社会を支えている最大の要素が高考です。
高考とは中国版の大学入試です。
全国の学生が同じ試験で競い合います。
有名大学への入学は人生を大きく左右すると考えられているため、多くの家庭が教育に莫大な時間とお金を投入します。
学生は、
- 朝早く起きる
- 夜遅くまで勉強する
- 塾や補習を受ける
という生活を続けます。
しかし大学進学率が上がった結果、今度は大学卒業後の競争が始まります。
高考を突破しても競争は終わらないのです。
学歴インフレが進んでいる
中国では大学進学者数が急増しました。
かつては大卒だけで十分な価値がありました。
しかし現在は、
- 修士課程
- 博士課程
- 海外留学
- 資格取得
などが求められる場面も増えています。
企業側もより高い学歴を要求するようになりました。
その結果、多くの若者がさらに勉強を続ける必要に迫られています。
これは典型的な内巻の例です。
職場でも内巻は続く
内巻は学校だけの問題ではありません。
職場にも広がっています。
特にIT業界では996と呼ばれる働き方が話題になりました。
- 朝9時から
- 夜9時まで
- 週6日働く
という働き方です。
もちろんすべての企業ではありません。
しかし競争が激しい業界では、「他人より長く働く」ことが評価されやすい傾向があります。
結果として、生産性よりも労働時間競争が起きてしまうのです。
寝そべり族は内巻への反発
内巻とセットで語られるのが「寝そべり族(躺平)」です。
寝そべり族とは、
- 出世を目指さない
- 高収入を追わない
- 無理に競争しない
という価値観を持つ若者たちを指します。
彼らは怠けたいわけではありません。
終わりの見えない競争に疲れた結果として、競争そのものから距離を置こうとしているのです。
つまり、
内巻=過剰競争
躺平=競争への抵抗
という関係があります。
内巻は企業にも広がっている
実は内巻は若者だけの問題ではありません。
中国企業同士の競争でも同じ現象が起きています。
代表例がEV市場です。
中国のEVメーカーは激しい値下げ競争を続けています。
販売台数は増えても利益は減少します。
太陽光発電や不動産業界でも似た状況が見られます。
つまり中国社会全体が内巻化しているとも言えるのです。
日本人にも他人事ではない
内巻という言葉は中国発ですが、日本にも似た構造があります。
例えば、
- 資格競争
- 就職活動
- 昇進競争
- 長時間労働
などです。
誰もが努力するため、さらに努力しなければ差がつかない。
こうした状況は日本人にも理解しやすいでしょう。
だからこそ内巻は、中国だけでなく現代社会全体の問題として注目されています。
中国社会を理解するなら競争の構造を見るべき
中国を理解するうえで重要なのは、「若者が努力不足だから不満を持っている」のではないという点です。
むしろ多くの若者は非常に努力しています。
問題は努力しても成果が見えにくくなったことです。
中国社会を理解するためには、経済や政治だけでなく、若者たちが感じている競争圧力にも目を向ける必要があります。
中国社会や世界の変化を深く学びたい人には、Audibleで社会学や経済学の書籍を聴くのもおすすめです。
ニュースだけでは見えない背景を知ることができます。
まとめ
内巻(ネイジュエン)とは、成果が増えないのに競争だけが激しくなる状態を指します。
背景には、
- 高考競争
- 学歴インフレ
- 就職難
- 長時間労働
- 将来不安
があります。
その結果として、寝そべり族や報復性熬夜といった新しい若者文化も生まれました。
内巻は単なる流行語ではありません。
現代中国が抱える構造的な問題を象徴するキーワードなのです。

