中国は世界有数の配信大国である。
映画は動画アプリで見る。
音楽はストリーミングで聴く。
アニメもスマホで視聴する。
一見すると、日本以上に物理メディアが不要になった国のように見える。
ところが実際には、中国の若者の間でレコードやCD、限定版アルバムの人気が再燃している。
なぜ配信大国である中国で、あえて物理メディアを買う人が増えているのだろうか。
その背景には、日本人が見落としがちな中国特有の事情がある。
「レトロブームだから」で終わらない
この現象についてよくある説明は、「若者のレトロブーム」である。
確かにそれも間違いではない。
中国では近年、
- レコード
- カセットテープ
- フィルムカメラ
- 古いゲーム機
などへの関心が高まっている。
しかし、それだけでは説明できない。
中国で物理メディアが支持される理由は、ノスタルジーよりもむしろ現代的な不安にある。
中国人は「作品が消える」ことを知っている
日本人はNetflixやAmazon Primeで見られる作品が、いつか消えることをそれほど意識しない。
しかし中国では事情が違う。
中国では検閲、版権契約、配信権の変更によって作品が突然消えることがある。
昨日まで見られた映画やアニメが、今日には検索しても出てこない。
これは珍しいことではない。
特に日本アニメや海外作品では、
- 配信停止
- 編集版への差し替え
- サービス終了
などが繰り返されてきた。
そのため中国のコレクターにとって、DVDやBlu-rayは単なる映像ソフトではない。
「作品を自分の手元に保存する手段」なのである。
推し活が物理メディア市場を支えている
もう一つの理由が推し活文化だ。
現在の中国ではCDやアルバムは音楽を聴くための商品ではなくなりつつある。
購入される理由は、
- トレーディングカード
- 限定フォト
- サイン入り特典
- 応援ランキング
などである。
つまりCDは音楽メディアではなく、ファングッズに近い。
これは日本のアイドル文化と似ているようで少し違う。
中国ではSNSの数字やランキングが非常に重視されるため、ファンが大量購入する文化が形成されている。
その結果、配信が普及しても物理メディア需要は消えないのである。
中国人はアルゴリズムに疲れ始めている
実は中国メディアでも最近よく語られるのが、「アルゴリズム疲れ」だ。
動画アプリを開けばおすすめ動画。
音楽アプリを開けばおすすめ曲。
ECサイトもおすすめ商品。
便利ではあるが、自分で探す楽しさは失われる。
そこで若者の一部が、
- レコード
- CD
- 書籍
- 雑誌
に価値を見出し始めている。
物理メディアにはアルゴリズムが介入しない。
自分の意思で選び、自分のペースで楽しめる。
その感覚が新鮮に映っているのである。
日本との決定的な違い
日本でもレコードブームは存在する。
しかし中国との大きな違いは「保存意識」だ。
日本人にとって物理メディアは趣味である。
一方、中国では文化資産を守る手段という側面も強い。
なぜなら中国では、
- 配信停止
- 検閲
- コンテンツ規制
が存在するからだ。
日本では「好きだから買う」が中心だが、中国では「消えるかもしれないから持つ」という心理も働いている。
ここが両国の大きな違いである。
実は中国でレコード産業が復活している
興味深いのは、中国国内でレコード生産まで活発化していることだ。
広東省や上海周辺ではレコード工場が拡大し、中国市場向けだけでなく海外向け生産も増えている。
かつてCDやレコードは「古いメディア」だった。
しかし現在は、
- 所有できる
- 飾れる
- コレクションできる
- 消えない
という価値を持つ商品として再評価されている。
デジタル時代だからこそ、逆に物理的なものが価値を持ち始めているのである。
配信が普及しても物理メディアは消えない
多くの人は配信が普及すればDVDやCDはなくなると思っていた。
しかし中国を見ると、その予想は必ずしも正しくない。
配信は便利だ。
だが所有はできない。
アクセス権を借りているだけである。
一方、物理メディアは不便だ。
しかし確実に自分のものになる。
中国の若者が買っているのはDVDやCDそのものではない。
「消えない安心感」である。
だからこそ配信大国である中国でも、物理メディア市場は完全には消えないのだろう。

